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名古屋地方裁判所 昭和46年(ワ)2040号 判決

原告 国

訴訟代理人 服部勝彦 ほか四名

被告 白川不動産株式会社

主文

一  被告は原告に対し、三、二七八、八四八円およびこれに対する昭和四二年九月四日から完済に至るまで、年六分の割合による金員を支払うこと。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

(一)  原告国(所轄庁名古屋国税局長)は、岡田春三に対し、昭和四五年七月三日現在既に納期限を徒過した総額一五二、五二五、二七〇円の租税債権を有しており、その後滞納者から一部納付(総額二、六〇五、八三六円)があつたが、他方、国税通則法第六〇条の規定に基づく延滞税(総額一四、三二一、五九〇円)が加算された結果、昭和四六年八月六日現在においては同じく納期限を徒過した総額一六四、二四一、〇二四円の租税債権を有している。

(二)  被告は金銭の貸付及び手形割引等を業とする商人である。

(三)  岡田春三は、有限会社岡田商事の代表者で昭和四二年二月三日に三、五〇〇万円、同年四月四日に一、五〇〇万円を同商事と連帯して被告から利息日歩六銭七厘の約で借受け、同年八月三一日右借金中三〇〇万円を一部弁済した。

(四)  右岡田は被告に対し利息として

(1)  昭和四二年二月三日(三、五〇〇万円に対する同日から同年四月三日までの日歩六銭七厘の割合による利息)

一、四〇七、〇〇〇円

(2)  同年四月四日(三、五〇〇万円に対する同年四月三日から同年六月三日まで日歩六銭七厘の割合による利息)

一、四五三、九〇〇円

(3)  同年四月四日(一、五〇〇万円に対する昭和四二年四月四日から同年六月三日までの日歩六銭七厘の割合による利息)

六一三、〇五〇円

(4)  同年六月三日

(イ)  三、五〇〇万円に対する昭和四二年六月三日から同年八月三日までの利息一、四五三、九〇〇円

(ロ)  一、五〇〇万円に対する昭和四二年六月三日から同年八月三日までの日歩六銭七厘の割合による利息六二三、一〇〇円

(ハ)  利息三一〇、〇〇〇円 計 二、三八七、〇〇〇円

(5)  同年八月三日

(イ)  三、五〇〇万円に対する同年八月四日から九月三日までの日歩六銭七厘の割合による利息八五九、四四〇円

(ロ)  一、五〇〇万円に対する昭和四二年八月三日から同年一〇月三日までの日歩六銭七厘の割合による利息六二三、一〇〇円

計一、四八二、五四〇円

計七、三四三、四九〇円をそれぞれ前払いした。

(五) 右岡田は昭和四二年九月三日現在利息制限法を適用の結果負担している前記借人金の中別紙(一)計算書残金の弁済として四、七〇〇万円を被告に支払つた。

(六) 被告は右(五)の金員受領の際、右受領額が利息制限法に依つて算出した同日当時の残存元本額を超えていることを知つていた。

(七) 被告は右岡田に対し、昭和四二年九月三日前記前払をうけた利息の返戻金として二九三、七九〇円支払つた。

(八) そこで原告は、昭和四五年六月三〇日前記租税債権を徴収するため、岡田が被告に対して有する右不当利得返還請求債権のうち三、二七八、八四八円およびこれに対する昭和四二年九月四日から完済まで年六分の割合による利息請求権を国税徴収法六二条により差押え、同年七月三日被告に対しその履行期限を同月一五日とする差押債権通知書を送達したが、被告は右履行期限を経過するも未だその履行をしない。

よつて原告は被告に対する右債権差押えによつて取得した取立権(国税徴収法第六七条)をもつて右不当利得返還請求債権金三、二七八、八四八円および昭和四二月九月四日から完済にいたるまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払いを求めるため本訴に及ぶ。

(九) 原告は、被告に対し金三、二七八、八四八円およびこれに対する昭和四二年九月四日から完済に至るまで商事法定利率である年六分の割合による金員の支払いを求めるものであるが、被告は金銭の貸付及び手形割引を目的としているところから本件金銭消費貸借契約が商法第五〇三条にいう商行為に該当することは明らかである。

そして、商行為である基本債権関係から生じた不当利得返還請求権も性質上商行為によつて生じた債権と認められる(大阪高判昭和三二、七、三下民集八巻七号一二三八頁、大阪高判昭和二九、三、二七下民集五巻三号四二四頁、東京地判昭和三九、八、四判例時報三九五号四二頁)から、岡田の被告に対して有する本件不当利得返還請求権も商行為である金銭消費貸借契約から生じたものである以上、また商行為によつて生じた債権である。したがつて、その利率は商法第五一四条により年六分である。

二  請求原因に対する被告の認否

(一)  は知らない。

(三)  は認める。

(四)のうち(1) 、(3) は認め、(2) について日付は四月三日、金額は一、四三〇、四五〇円で昭和四二年四月四日から同年六月三日までの日歩六銭七厘の割合による利息である。(4) については(イ)を認め、(ロ)は一、五〇〇万円に対する昭和四二年六月三日から同年八月三日までの日歩六銭七厘の割合による六二三、〇〇〇円を受取つたので、その金額は二、〇七六、九〇〇円である。(5) については(ロ)を認め、一、四八二、四六〇円でありうち八五九、三六〇円について利息であるとの点は否認し、

(五)について九月三日に受領したのは三、三〇〇万円であり残額四〇〇万円を受領したのは九月五日である。

(六)は否認する。

(七)について九月三日に支払つたのは二九一、四五〇円である。

(八)について原告主張の不当利得返還請求権及び遅延損害金請求権を有する点を争い、その他を認める。

三  被告の主張

(一)  被告が岡田に貸与した三、五〇〇万円の弁済期は昭和四二年八月三日、一、五〇〇万円の弁済期は同年一〇月三日であり、右期日に支払いなきときはそれぞれ日歩八銭二厘の遅延損害金を支払う旨の合意があつた。

(二)  右岡田は右三、五〇〇万円につき昭和四二年八月三日(支払期日)に弁済できなかつたので被告は、(イ)三〇〇万円につき昭和四二年八月三一日、(ロ)二、八〇〇万円につき同年九月三日、(ハ)四〇〇万円につき同年九月三〇日と分割して支払を受けることとなり、同年八月三日、(イ)に対する昭和四二年八月三日から同月三一日までの日歩八銭二厘の割合による六八、八〇〇円、(ロ)に対する昭和四二年八月三日から同年九月三日までの日歩六銭七厘の割合による六〇〇、三二〇円、(ハ)に対する昭和四二年八月三日から同年九月三〇日までの日歩八銭二厘の割合による一九〇、二四〇円をそれぞれ遅延利息金として合計八五九、三六〇円の前払いを受けた。

(三)  右岡田は前記(二)の(イ)(ロ)はそのとおり支払い、昭和四二年九月五日前記(二)(ハ)の四〇〇万円を支払つたので、被告は同日から同年九月三〇日までの右四〇〇万円に対する日歩六銭七厘の割合による八五、二八〇円を同日右岡田に返却し、前記(二)(ロ)に対する遅延損害金六〇〇、三二〇円はその計算に誤りがあつたので、その不足分八二、九四〇円追徴した。以上被告が岡田から三、五〇〇万円の貸金について現実に取得した利息並に遅延損害金は五、一七一、八二〇円である。

(四)  前記(一)の一、五〇〇万円はその支払期日前である昭和四二年九月三日に一、五〇〇万円の支払いをうけたので、同月五日既に前払をうけていた昭和四二年八月三日から同年一〇月三日までの利息のうち右支払期日後の利息として二九一、四五〇円を右岡田に返却した。以上被告が岡田から一、五〇〇万円の貸金について現実に取得した利息は、前記六一三、〇五〇円、六二三、〇〇〇円、六二三、一〇〇円の計一、八五九、一五〇円から右二九一、四五〇円を差引いた金員である。

(五)  よつて各約定利率による計算の結果被告が岡田に返還すべき金員は別紙(二)のとおり三、五〇〇万円の貸借につき一五、〇四〇円、一、五〇〇万円の貸借につき三〇、〇五〇円、合計四五、〇九〇円である。

(参照、最高裁判所昭和四一年(オ)第一二八一号昭和四三年一一月一三日大法延判決、国税庁長官昭和四一年八月二二日各国税局長宛国税徴収法基本通達)。

(六)  岡田は被告から前記一(三)の金員を借り受けるに際し利息日歩六銭七厘の約定利率は利息制限法所定の利率を超えるものであることを知りながら任意に右約定利率による利息の前払いをした。

よつて岡田は利息制限法以上の利息と利息と前払を原因とする不当利得返還を請求できないから、原告の本訴請求も失当である。

四  被告の主張に対する原告の認否並に主張

(1)  (一)(二)(五)(六)を否認し、(三)および(四)について被告が岡田に総額二九三、七九〇円を返却したことは認めるがその他を否認する。

(2)  借入金三、五〇〇万円については、そのうち三〇〇万円は昭和四二年八月三一日これを弁済し、残額三、二〇〇万円の弁済期は七〇〇万円が同年九月三日、四〇〇万円が同年九月三〇日、七〇〇万円が同年一〇月三日、七〇〇万円が同年一一月三日、七〇〇万円が同年一二月三日である。(二)の(イ)は六八、八八〇円で(二)の(ハ)は八月三日から九月三〇日までの利息である。

(3)  借入金一、五〇〇万円の弁済期は元本を五分して、三〇〇万円を昭和四二年一〇月三日、同年一一月三日、同年一二月三日、昭和四三年一月三日同年二月三日と定めた。

(4)  岡田は別紙(一)添付計算書D欄記載のとおり利息を天引され、または前払したため、その都度H欄記載の金額が超過支払利息となり、当該金額をそれぞれ順次元本に充当すると、岡田の被告に対する昭和四二年九月三日現在の借入金残存元本金額は四三、七〇二、三三九円となる。ところが岡田は同日被告に対する元本の弁済にあたり、超過利息相当額が元本に充当されて減少していることの認識が全くないまま当初の約定どおりの四、七〇〇万円を支払つたのであるから、差引金三、二九七、六六一円の元本を過払いしたこととなり、同金額につき不当利得返還請求権を有する。

(なお被告の引用する最高裁判所昭和四一年(オ)第一二八一号昭和四三年一一月一三日の大法廷判決は、利息制限法超過の事実を承知していたか否かに関するものではなく、債務者が超過分の元本への充当による債務の消滅という計算関係を承知していたか否かに関する判例である)。

(5)  岡田は被告に対し、昭和四二年六月三日三一〇、〇〇〇円を利息として支払つている。

被告が岡田に貸付けた金額は、昭和四二年二月三日の三五、〇〇〇、〇〇〇円および同年四月四日の一五、〇〇〇、〇〇〇円のみであり、このことは、被告の明らかに争わないところである。

したがつて、右三一〇、〇〇〇円は、本件金銭消費貸借に関し、支払われたのであるから、利息制限法第三条により利息とみなされる。(なお、本件契約費用については昭和四二年二月三日「代書手数料」として二五〇、〇〇〇円を支出しているので、右三一〇、〇〇〇円が同法第三条ただし書にいう契約費用に当らないことは明らかである。)

(6)  被告は、「日歩六銭七厘の割合による利息を取得し得る」と主張されるが、この点は争う。利息制限法第一条第一項により、本件金銭消費貸借契約で被告が取得しうる利息が、年一割五分(日歩四銭一厘九糸)以下であることは、議論の余地がない。また、「日歩八銭二厘の割合による遅延利息を取得し得る」との主張についても争う。本件の場合年三割(日歩八銭二厘一毛九糸)以下であるから、無効ではないが、そもそも、弁済期が未到来であるから、有効、無効を論ずるまでもなく被告の主張は失当である。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因について

(一)について〈証拠省略〉によれば、原告主張のとおり岡田春三は昭和四六年八月六日現在総額八八、八七一、四〇一円の租税を滞納していたことが認められる。

(二)は被告において明らかに争わないから自白したものとみなす。

(三)は当事者間に争いがない。

(四)につき(1) (3) (4) の(イ)、(5) の(ロ)は当事者間に争いがない。〈証拠省略〉によれば(2) が認められ、〈証拠省略〉によれば(4) の(ロ)(ハ)、(5) の(イ)が認められる。

〈証拠省略〉によれば(五)が認められる。

(六)は被告が金銭の貸付を業とする商人である事実及び被告代表老本人尋問の結果により白川不動産との取引関係は銀行勘定の帳簿に記載されていたことが認められ、右事実によれば当然これを推認できる。

(七)について被告が二九三、七九〇円支払つたことは当事者間に争いはない。〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨によれば右金員の支払われた日は九月三日と認められる。

(八)は原告主張の請求権の存在の外当事者間に争いがない。

二  被告の主張について

(一)について被告代表者は三、五〇〇万円の弁済期は昭和四二年八月三日であつた旨供述するが右供述は〈証拠省略〉に照らしたやすく信用することができず他に右事実を認めるに足りる証拠もない。(二)ないし(五)の主張については前記認定事実に照らし失当であるから、これを排斥する。

(六)について証人岡田春三の供述によれば岡田は本件貸借について利息制限法超過の事実を知らなかつたことを認めることができる。

三  以上の事実によれば岡田が前払いをした各利息は、利息制限法第一条第一項所定の利率を超えるものであり、各超過支払額を同法第二条により順次元本に充当し返戻金を加えて計算すると昭和四三年九月三日当時の残存元本額は四三、七〇二、三三九円であつた。然るに右岡田は同日被告に対し四、七〇〇万円支払つたのであるから被告は差し引き三、二九七、六六一円を不当に利得していたことになる。

被告は原告に対し右金額の範囲内である三、二七八、八四八円及びこれに対する昭和四二年九月四日から完済まで商事利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

よつて原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言について同法一九六条一項を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 越川純吉)

別紙(一)〈省略〉

別紙(二)

35,000,000円と15,000,000円の貸借につき被告より岡田春三に対し返還すべき金員

一 15,040円

但し5,171,820円より後記合計の5,156,780円を控除した金額

35,000,000円の貸借につき被告が取得し得る利息並に遅延利息

(一)利息

1.1,407,000円、昭和42年2月3日

但し 昭和42年2月3日より同年4月3日まで60日間の35,000,000円に対する日歩6銭7里の割合による利息

2.1,430,450円、昭和42年4月4日

但し 昭和42年4月4日より同年6月3日まで61日間の35,000,000円に対する日歩6銭7里の割合による利息

3.1,430,450円、昭和42年6月4日

但し 昭和42年6月4日より同年8月3日まで61日間の35,000,000円に対する日歩6銭7里の割合による利息

計 4,267,900円

(二)遅延利息

1.68,880円 昭和42年8月4日

但し 昭和42年8月4日より同年8月31日まで28日間の3,000,000円に対する日歩8銭2里の割合による遅延利息

2.711,760円 昭和42年8月4日

但し 昭和42年8月4日より同年9月3日まで31日間の28,000,000円に対する日歩8銭2里の割合による遅延利息

3.108,240円 昭和42年8月4日

但し 昭和42年8月4日より同年9月5日まで33日間の4,000,000円に対する日歩8銭2里の割合による遅延利息

計  888,880円

合計 5,156,780円

二 30,050円

但し 1,567,700円より後記合計の1,537,650円を控除した金額

計    45,090円

15,000,000円の貸借につき被告が取得し得る利息

1.613,050円 昭和42年4月4日

但し 昭和42年4月4日より同年6月3日まで61日間の15,000,000円に対する日歩6銭7里の割合による利息

2.613,050円 昭和42年6月4日

但し 昭和42年6月4日より同年8月3日まで61日間の15,000,000円に対する日歩6銭7里の割合による利息

3.311,550円 昭和42年8月4日

但し 昭和42年8月4日より同年8月3日まで31日間の15,000,000円に対する日歩6銭7里の割合による利息

計 1,537,650円

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